学会発表・論文作成シリーズ。


症例報告ではない学会発表や論文作成をする上で、「データ収集」は必要不可欠です。

自分の施設に十分に使えるデータベースが存在する場合には、そのデータを使って解析するだけですが、たいていの場合は解析に使用する「データベース」を自分で作らなければなりません。
ですが、闇雲にデータを集めても、実際解析を行う場面では使い勝手が悪く解析まで到達するのにさらに時間がかかることがよくあります。
ここでは、後々の「解析しやすさ」を重視したデータ収集の方法をご紹介します。


エクセルでのデータ収集の鉄則

表計算ソフト、つまりエクセルでデータを収集するときに、厳守したい鉄則があります。
  • 1行1レコード
  • 通し番号をつける
  • 表記の揺れをなくす
これを守っているか守っていないかで、後々のデータの処理のしやすさが格段に変わります。

医療等の現場でデータを収集するときの注意点

個人情報の扱い

基本的には持ち出さないのが原則です。
何が個人情報に当たるかは各種講習で提示されているので、必ず受講し理解しましょう。
個人情報に限らず、情報の持ち出しについては事前に申請が必要な場合があります。所属機関の規則を確認しましょう。
また、持ち出しがどうしても必要な場合でも最低限の情報に限るのが賢明です。
データを暗号化しておくのも選択肢ですね。

研究計画を倫理委員会に提出する

研究を開始する前に、あらかじめ所属先の倫理委員会等に研究計画を提出し承認を得ておきましょう。
後出しは基本的にアウトです。


データ収集のデザイン

過去の文献をお手本にする

研究はデザインですべてが決まります。なので、まずはどんな研究をするか計画を立てましょう。
必要なデータや、解析方法をどう選べばいいかわからない場合は、過去の報告を参考にするのがおすすめです。
自分が調べたいことを論文データベース(Pubmedや医中誌など)で検索し、似たような論文を探します。
(できればきちんと査読が行われている雑誌がいいです。データベースに載っている論文は大丈夫だと思いますが)
リンクはこちら:医中誌webPubMed

その論文を参考に、収集するデータの項目や解析方法を計画します。
先にどのデータを集めておくか決めておかないと、後から追加で調べようとすると、再び情報の海に潜らなければならず、かなり手間と時間がかかります。事前準備が大切です。

データの並び順を考える

調べたいデータのリストアップが終わったら、その後はデータ収集です。
そのまま収集しても良いですが、ちょっとした一手間でやりやすさがアップします。

例えばカルテからデータを集めるとき、同じところにあるデータはまとめて入力したいですよね。
また、採血結果などは、その病院の検査結果と順番を合わせておけば、入力間違いも減らせます。
列の入れ替えは後からでもできるので、やりながら「流れるように作業ができる環境」をそろえましょう。

テーブルを使う

エクセルの新しい機能:テーブルを使うと、最初のレコードに形をそろえてくれるので便利です。
1行目にタイトルを、2行目に最初のレコードを入れて、データを範囲選択>挿入>テーブルでテーブルの形式になります。
次からはテーブルに接した部分に入力が始まると勝手にテーブルの範囲が広がっていくので、新しい設定は不要です。
ぜひ使ってみてください。

例えば

胃癌の胃切除術におけるBMIが術後経過に与える影響を調べたい場合

調査項目としては、疾患に関連したもの、結果(Outcome)に関連するもの、結果に影響を与える可能性があるもの、で考えるといいと思います。
患者背景として、性別、年齢。対象疾患に関連したものとして、胃癌のステージ、術式。
アウトカムとしては、入院中の合併症の有無、入院期間等でしょうか。生存期間、再発の有無もよくアウトカムになりますね。
結果に影響を与える可能性があるものとしては、BMIの他、手術時間・出血量、また術前の栄養状態なども関係するかもしれません。
過去の文献を見ながら調べたい項目をリストアップして、1行目にタイトルをつけていきます。

先ほどの鉄則に沿うと、
1行1レコード:患者1人のデータは1行にまとめます。
通し番号をつける:1列目はNo.がよいでしょう。1から順番に振ります。
表記の揺れをなくす:「男性」か「男」か「M」か、どれかにそろえましょう。数値は半角が原則です。
また、手術時間などは後で統計することを考えると分で入れたいところですが、記録は大抵時間+分ですよね。その場合には、列を分けておくと、あとで分に計算し直すのが簡単になります。

実際にデータを入力しているときに、散らばっている情報源からすべてを正確に表に入力するのは手間だったりするので、自由記載のセルを作り、とりあえずデータを入れるだけ入れておいて、あとで適切に入力し直すのも一つの作戦です。

作ってみるとこんな感じになります。




時間を有意義に使うために、事前に準備をして研究を始めましょう。
次回、データの集計予定!